フィギュアスケートシーズンたけなわです!
グランプリシリーズも、フィンランド杯も終わりあとは中国杯を残すのみ。
ファイナルには、たくさんの日本選手が進出出来そうな予想。
スケオタには大変楽しい季節になりました。
去年からグランプリシリーズの解説に町田樹さんが加わって、観戦の楽しみも倍増。
そう、わたしは町田樹さんの大ファンなのです!
以前のブログにも町田さんへの愛を書き連ねています。
フィギュアスケートシーズン始まる - バイオリンと外宇宙の話 vol.2
町田樹さん最後の公演 「人間の条件」マーラーのアダージェット - バイオリンと外宇宙の話 vol.2
町田樹さんとシューベルト「継ぐ者」あるいは翼を広げることについて - バイオリンと外宇宙の話 vol.2
町田さんは本業の大学准教授の他にも解説者、スポーツ科学研究者、バレエ・スケート指導者、振付家など多くの顔を持ち、CSテレ朝、J-SPORTSの2局でご自分の冠番組を持つなど大活躍されています。
わたしは彼の現役最終盤からの大ファンなのですが、プロスケーター時代、さらにプロも引退したあとのTVでのフィギュアスケート解説なども大応援。
わたしが何でこんなに町田さんにハマったかというと、長〜いフィギュアスケート・ライトファン時代にず〜っとこうなれば良いなと思っていたことを、すべて町田さんが実現して下さったからなのです!
ここでは町田さんのフィギュアスケート解説について長々と語ろうと思います💕
フィギュアの採点・解説史
長いフィギュアスケート・ライトファン時代と申しましたが、わたしは小学校の頃から母とオコタでみかんを食しつつオリンピックのフィギュアスケートを楽しく見ていました。その頃日本人なんてほとんど出場してません。でもなぜか母もわたしもフィギュアスケート大好きでした。実に半世紀以上の歴史がありますw
「ソビエト連邦 ロドニナ・ザイツェフ組オリンピック3連覇」とか
「東ドイツ・カタリーナ・ビット オリンピック2連覇」とか
全部リアルタイムで見てましたよ〜。
その頃はもちろん旧採点法。
技術点と芸術点を6点満点で評価するのですが、まだ米ソ冷戦時代だったころは、9人のジャッジの内訳が東側西側で4対5人になるわけで、仮にくじ引きのジャッジ選出で西側が4人になったら「あ、これで(ソ連に)負けた」と演技前に悟っちゃうみたいな時代だったんですよね。
今のように最終順位は点数の合計ではなく、各審判が出す「順位を得点化した順位点」で決まりました。他の選手に比べて上か、下か、という相対評価。
それほど主観的、かつ技の難易度より全体の完成度、印象などが先行した時代でした。
新採点法時代は「回りきってコケたほうが抜けるよりマシ」なんて言ったもんですが、この時代は転倒は大変痛かった。(いや、今でも痛いのですが…)
ネガティブなことも多かった旧採点法、しかし、このころTVで解説を担当していた五十嵐文男さん、その他の解説者の方なども、技術的な側面ばかりでなく芸術的な側面もかなり言及していたように記憶しています。今よりはもっと曲について、表現面について語っていたと思うのです。
新採点法以後
それがガラリと変わったのは新採点法が採用された2004年以後です。
一つ一つの技に対して値段がつくようになりました。それをさらに細かく足し引き算するGOEという出来栄え点ができ、今までの6点満点方式と違って技術点は上限がなくなりました。(ただし芸術点【演技構成点】は10点満点で上限有りの採点)
そして、TV中継の解説は、技の値段と加点をいちいち説明するスタイルが主流になりました。「トリプルトウループ!流れがありますね〜。トリプルルッツ!手をつきました」
…という、「技名連呼」の解説が定着したわけです。
それまでの、完成度重視や印象論が主流の解説から、具体的にジャンプの種類、スピンの種類など細かな技の解説をすることは新採点法時代の革新だったかもしれませんが、この頃から「音楽と表現」について語られることが激減してしまったように思います。
もちろん新採点法は、採点がプロトコルによってクリアに、無名な選手も有名な選手もより公平に、という点では計り知れないメリットはありました。
フィギュアスケートの芸術点とは
実は、旧採点法であれ新採点法であれ、フィギュアスケートというスポーツ競技のルールは「技術点・芸術点がフィフティー・フィフティー」なのです。
ちなみに新採点法では芸術点は「演技構成点」と言います。
旧採点法は技術点も芸術点も6.0が上限でした。
新採点法はジャンプの技術が進み、4回転を3本4本飛ぶ男子などは技術点がどんどん高くなっていきますが、その傾向に合わせてISUではルール改正によって技術点と演技構成点がフィフティーフィフティーになるように採点比率(係数)を調節しているのです。
競技の基本理念がそうである以上、「トリプルトウループ!流れがありますね〜」という解説だけでは競技の半分のみについて解説しただけであり、選手と振付家がなぜこの曲を選んだのか、その曲で何を表現したいのかという、もう半分の採点基準である芸術要素についての解説が全く欠落しているのです。
ある日の新採点法解説
ある時フィギュアをTVで見ていると、女子選手が「カルメン」を演じていました。ですが、全くカルメンらしさがなく、振り付けを存分に活かしきれていないなーと思いつつ見ていました。
その女子選手の点数が出たあと、アナウンサーが解説者に「今後のこの選手の課題は何でしょうか」と聞いたので、わたしは「これは絶対に『もっとカルメンの役柄を理解して演技するのが課題だ』そう言ってくれるだろう」と期待しました。ところがその解説者は「ルッツジャンプの精度が問題ですね〜」と。また技術ばっかりの解説。かなりがっかりしました。
「もっと芸術面を的確に解説してくれる人はいないものか」
ずーっとそう思っていました。
2014年ボーカル解禁
2014年にルール改正でボーカル入りの曲が解禁されました。以来、それまで主流だったクラシックやインストゥルメントの曲は減り、歌詞の入った曲が増えてきました。
洋楽とかは私keroが全く聴かないジャンルであり、「曲の歌詞は何を歌っているのか」わからない。贔屓の選手であれば調べたりするのですが、まったりとTVでいろんな選手を見ている時はいちいち調べたりしない。故に、スケーターが何を表現したいのかわからない。
せめて歌詞の内容などは解説で説明してくれればいいと思うんですが、相変わらず技名を連呼するだけの解説。
解説者は曲の歌詞をすべて理解したうえで解説しているのでしょうか?もしそうでないとしたら、「選手と振付家がなぜこの曲を選んだのか、その曲で何を表現したいのか」という演技の芸術性についてどのように理解ができるのでしょうか?
町田樹さんの解説者としてのスタート
さて、そんな時に当時プロスケーター活動と早稲田の博士課程を両立していた町田樹さんが2017年のCaOI(アイスショー)で初解説されて、大きな話題を呼びました。
わたしが考えていたような、技術だけでなく芸術面、特に音楽面についての詳しい理想の解説。
「これだ!!これがわたしが聞きがかった解説だ〜!!」と狂喜乱舞しました。
今だに良く覚えている解説がたくさんあります。
●アレクセイ・ビチェンコ「ハバナギラ」
「この曲は元々ウクライナの民謡が元のイスラエル舞曲なんですが、そこからもビチェンコさん自身のアイデンティティーと軌を一にするんですね」
ビチェンコさん自身元ウクライナの国籍で、競技会出場機会を求めてイスラエルに移籍。
●ネイサン・チェン「ネメシス」
「ベンジャミン・クレメンタインという人はホームレス生活から歌で人生這い上がったという異色のキャリアを持つボーカリストなんですよね。自分を捨てた女性に対して復讐の女神に因果応報を願うという歌詞なんです。この歌の持つソウルフルなテイストが彼に良く合っているんじゃないでしょうか。」
どうです、そんなに長々と語っているわけではありませんが、的確にどんな曲でスケーターと振付家が何を表現したいのかわかるではありませんか。
これを聞くと聞かないでは演技の理解度が全く変わります。
他の解説者もこういうことちゃんと説明して〜!と言いたいところですが、町田さんによるとやはり準備が大変とのこと。スタッフと1ヶ月前くらいから準備するそうです。
手間がかかるというのが理由なのか、解説者は皆元アスリートなので曲や芸術面はわからないという理由なのか。今のところ、このような解説をする人は町田さんの他には残念ながら他にいないのです。
町田さんの解説で演技を見ると、解像度が高くなるというか、より選手のパフォーマンスが好きになるのです。
テレ東からテレ朝へ
初解説から2018年平昌オリンピックの振り返り解説等を経て、町田さんとテレビ東京の板垣アナのタッグは数年続きました。中でも配信で「町田樹45分」とか「町田樹100分」と題してシーズンの予想や総括をしたコンテンツはテレ東のスタッフの素晴らしいデータ収集分析によりとても良い番組になりました。
これからもこのような番組を…と楽しみにしていた矢先、何と!
テレ東はすべてのフィギュアスケートのコンテンツから撤退をしてしまったのです。
もう町田さんの解説聞く機会なくなっちゃうのかな…と悲しく思っていたら、その年の10月、恒例のテレ朝のグランプリシリーズの記者会見にいきなり町田さんが現れました。
びっくりしたな、もう〜。
考えてみたらこんなに「解説」で評判をとる人なんて他にいないんだから、それは引っ張りだこでしょうね。
地上波の何試合かの解説担当の他、テレ朝のリアルタイム配信コンテンツに、各大会後に特典映像を配信するとのこと。
ハイ、仕方なく有料コンテンツ課金しましたよ。
しかし、課金した分は十分元が取れました。
毎回30分近い技術面も芸術面も充実した解説、振り付け、選曲の傾向や細かな技術面について。毎回本当に面白かったです。
この年はNHKのエキシビションのパブリックビューイング解説にも呼ばれていました。そしてわたしの応募ハガキは抽選で落ちてしまったのでした(泣)
押しが引っ張りだこなのは嬉しいけど、町田さん働き過ぎですよね〜。
ブリッチギー選手のチャップリンの演説
先週のフィンランド大会のルーカス・ブリッチギー選手のSPはIron Sky という曲を使用してたのですが、その中にチャップリンの「独裁者」の有名な演説のセリフを引用した場面があり、ブリッチギー選手はチャップリンの演説に合わせてステップシークエンスを滑った、つまり言葉にのせてステップをしたのですが、町田さんは何とこの部分を日本語に翻訳して、演技に合うようにアテレコをしたのです。
ステップに合わせて日本語をはめるのですから、何度も練習したんだろうなあと感心する反面、このチャップリンの社会的メッセージを正確に日本の視聴者に伝えたいという気持ちがひしひしと伝わってきて、かつチャップリンの1940年代のメッセージが今の社会にも全く同じように意味のある価値あるメッセージだということに非常に感動しました。
今までにないこと、目新しいことをする解説だと一部視聴者の中には拒否反応があるかとは思います。伝え方やタイミングの問題等、熟練が必要なケースもあるでしょう。(町田さんの語りは声質も良く大変上手いと思うのですが)
やはりわたしは「技術と芸術はフィフティーフィフティー」であるとの競技の基本理念を鑑みて、町田さんの解説の試みをこれからも支持します。
新採点法も20年の運用を経て、最近は特に芸術点の採点が重視されているように感じます。以前なら4回転を4本飛んだ男子選手より1本しか飛ばない選手が芸術性故にリードするなんて考えられませんでした。この時代は、町田さんのように芸術面を語れる解説者が求められているのです。
今年の町田さんの解説
今年2024年も町田さんは大忙しです。
CSテレ朝ではフィギュアスケートの深堀り番組担当。
グランプリシリーズではアメリカ大会、フィンランド大会を担当。
配信では去年と同じく特典映像として振り返り解説。去年組んでいた三上アナウンサーが急逝されたので急遽他のアナと組んでいますが、どの方とも良い感じ。アナウンサーの方々も町田さんとのセッションを楽しんでいるのがよくわかります。
その他に、NHK杯解説で9時のニュースに出てたのをうっかり見逃したっていうのもありました(汗)
24日にはNHK杯の総集編でナレーションを担当予定。
解説だけでもこの忙しさ。
働き過ぎに気をつけて…
と言いたいけれど、きっと彼は「両側から燃えるろうそくでありたい」って言うでしょうね。
これからも町田さんの解説を押しつつ、よりフィギュアスケートを楽しもうと思いますので、どうぞご自愛ください。