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初演から32年
東京文化会館が来年5月から3年間改装工事に入るそうなので、東京バレエ団の演目を最後に何か見ようということで、モーリス・ベジャール振付の「M」をセレクト。ウィーン国立歌劇場のオペラもそそられますが高いしね😅
実は私、この作品32年前の世界初演の初日に見に行きました!
そしたら、大学時代に文学ゼミでお世話になった奥野健男先生に会場でバッタリ。
奥野健男先生は三島由紀夫の研究者で大変有名で、ゼミではほぼ1年かけて「仮面の告白」の分析したり、私のゼミの卒論も「三島由紀夫とモーリス・ベジャール」でした。Mの発表より数年前ですよ!偉いぞ自分(笑)
↓こちらが奥野先生の著書。

初演にはベジャールさん、作曲の黛敏郎氏もカーテンコールで出てきました。そのお二人もすでに亡く、奥野先生もすでに亡く。今となっては懐かしい思い出です。
当時もNHKテレビ放映をやって、VHSビデオに録画して楽しんでいたんですが、今や見られなくなってしまい…。
ところが、検索してみたらYouTubeにアップしてくれている方がいるではありませんか。
初演のキャスト、シ(死)が当時ベジャール・バレエ・ローザンヌの小林十市さん。聖セバスチャンが首藤康之さん。懐かしい〜!!
youtu.be
最初の15分間が命
というわけで、行ってきました!
10月21日日曜日。会場にはNHKのデカい中継カメラが。11月にNHKプレミアムシアターで放送するそうです。嬉しい〜🎵
今回改めて見て、「ええ!なんだか自分が昔見たのと違う気がする!演出変えたのかな!?」なんて思ったんですが、YouTubeと比較したら全く同じ振り付け・演出でした。変わったのは自分の方の感じ方で、おそらく自分が32年分「死」に近づいたからかもしれませんね。
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ベジャールさんのバレエをかれこれ45年くらい見ていますが、とにかく幕が開いて最初の15分間が最重要!!
どの作品でも、つかみというか「おお!こう来たか〜」という驚きと衝撃が半端ない。
多作の人でしたからおそらく振付作るのが早く、それ故、中盤辺りはいつも荒いかな〜、なんて感じたこともありましたけどね。それを補って余りある演出力と発想!本当に天才って思います。このMも練習のため来日してわずか1ヶ月で作り上げたということです。
衝撃の出だし
潮騒の音で幕が開くと、「海」に扮した女性たちがまるで菩薩のようなポーズで3列に座っている。照明の効果でひな壇に座っているように見えますが、実は平らな舞台です。

次々とポーズを変え、口に指を当てる。この間ずっと音楽はなく潮騒の音で、良く全員でピタリと動きを揃えられるなーと感心します。前回気づかなかったのですが、この口に指を当てる仕草はのちのち出てくる「シ(死)」のモチーフと呼応していたのではないか。「豊穣の海」をイメージさせられるシーンです。
ようやく音楽が鳴り始め、舞台のオケピットの下から、学習院初等科の制服を来た少年三島が日傘をさした祖母に手をひかれ登場します。

海辺を散歩する二人ですが、そのうち少年が「イチ、二、サン」と言いながらぴょんぴょんとジャンプ。すると、祖母だった人物が着物をさっと脱ぎ、白塗りの青年の姿に変身して「シ!」と続けます。
この、祖母が実は「シ(死)」であった、ということが三島の「仮面の告白」などを読んでいる者にとっては重要かつエモーショナルなところです。
祖母である夏子は三島の母から生後すぐに赤子を奪い取って、自身の「病気と老いの匂いにむせかえる祖母の病室で」大切に過保護に育てたという曰く付きの祖母。「彼女は狷介不屈な、或る狂おしい詩的な魂だった。痼疾の脳神経痛が、遠回しに、着実に、彼女の神経を蝕んでいた」
海に扮した女性たちはケラケラと笑いだし、童謡を歌いだします。
「一かけ、二かけ、三かけて、四かけ五かけで橋かけて…」
西郷隆盛とか切腹とか出てきて妙に耳に残る童謡なんですが、プログラムの高橋典夫さん(バレエ団専修理事)によると、ベジャールは日本語の歌詞の意味を知らずにリズムを頼りに選んだということ。びっくり!
この曲に合わせて、大きな箱の中に三島少年を入れて、扉を開けると少年が消えているというマジックが「シ(死)」によって行われます。マジックによって再び現れた少年は般若の仮面を被っています。
三島の少年時代からの悲劇的なものに対する偏愛(紺の股引を履いた汚穢屋、矢の刺さった聖セバスチャン)、「鬼っ子」である本質は「死」である祖母から生まれてきたものだという…。初演の時の衝撃が今でも思い出されます。
プログラムに寄稿している織田紘二氏は、「Mの真の勝利者はN=夏子(祖母)ではなかったか」と書いています。夏子は身分の低い夫(三島の祖父)に嫁いできたかなり身分の高いお姫様だったのですが、結婚後自分に性病を感染させた夫を憎しみ蔑んでいて、無意識に復讐をしたのではないか。
うーん、いろんな解釈が出来るし、あとから考えるとああでもないこうでもないと色々想像が…。もう一回「仮面の告白」読んでバレエもまた見ないと。とても一回じゃ整理できませぬ。
三島の分身四人と聖セバスチャン
そのあと海上の月として白いレオタード姿の女性(三島の母のイメージらしい)、三島の分身としてイチ、ニ、サンが登場。この3人と「シ」を合わせての四人が三島の分身として出てきますが、そのイメージは「鏡子の家」の中の四人の登場人物から来ているそうです。
私好きなんですよね、「鏡子の家」。ボクサー、美青年の俳優、日本画家、商社に勤めるエリートサラリーマンの4人が出てくる話です。
ちなみにこのバレエの四人は「言葉、精神、肉体、行動」を表してるそうです。誰がどれだか想像するのも楽しい。

聖セバスチャンの登場
このあと弓道の射手が登場。長ーい沈黙(5分とか10分くらいあった?)の中、ゆっくりと作法に則って弓矢をつがえ、舞台上手に向かって射るのですが、その間音楽も効果音も全くなし。
このバレエ、無音のシーンが異常に多く、またオリジナル音楽(黛敏郎)自体も「ハァ〜、ポン!!」みたいな感じで、全体に能の影響を強く感じます。ザ・カブキは歌舞伎だからもっと大河ドラマのテーマみたいなわかりやすいもんだったけど、こちらは相当難解。踊り手がアンサンブル合わせるのがすごく大変そう。でも流石東京バレエ団、ピッタリ合った素晴らしいダンスを見せてくれました。
弓矢が放たれたあと、舞台真ん中の標的から「聖セバスチャンの殉教」の絵とそっくりの人物が登場。
分身四人と聖セバスチャン(三島の憧れ、エロスの象徴)の五人によって、三島の代表的な作品が描かれていきます。
「禁色」「午後の曳航」「鹿鳴館」「鏡子の家」「金閣寺」「豊穣の海」

少年役にブラボーを
どの場面もすべて少年三島の思い描いた幻想として描かれているのですが、この少年役が出ずっぱりでかなり大変。東京バレエ団のジュニアクラスの生徒さんなんだと思いますが、セリフもあるしリフトで持ち上げられるし、3日間の公演大変だったでしょう!ブラボーものです。
最後、楯の会のメンバーも登場し桜の花びらが舞う中、三島が自決(扇で顔を隠す)するのですが、この「少年三島の思い描いた幻想」という視点により、批評でも肯定でも否定でもない、一つの美しい絵として描いています。音楽はトリスタンとイゾルデの愛の死。

↓Mのプログラム表紙

横たわった少年の身体から赤い紐が出て(血なのか、生々しいが腸なのか)それを「シ」が舞台中央に出てきた登場人物に絡みつけていきます。フランス語のシャンソン「ジャタンドレ(待ちましょう)」が流れるのですが、ここは元は淡谷のり子の「別れのブルース」が候補だったそうな!(いろんな裏話をプログラムに書いてくださった高橋典夫さんありがとうございます。)
そして再び少年は起き上がり、最初の海の場面へ。祖母に手を弾かれ潮騒の音とともにオケピットに消えていく。かくして「豊穣の海」に書かれた通りの輪廻転生、生から死、死から生へと完結したドラマでした。
「M」とは
プログラムには「M」とは、Mishimaであり、海(Mer)、変容(Métamorphose)、死(Mort)、神秘(Mystère)、神話(Mythologie)であると書かれていました。
しかし、私にとってはMagicでしたね!!なんという美しい絵に満ちた舞台、シャープなテクニックのダンサーたち。静と動。一時も目を離せない緊迫感と静寂とドラマに満ちた100分でした。
そして、ダンサーが上手い!!32年前に見た時も良かったけれど、よりソロも群舞も、女性ダンサーも男性ダンサーも粒ぞろい!やはり見に行って良かった〜!!
三島の小説を読んでないとわからないと思われがちですが、全然そんなことはありません!もちろん読んでる方が想像力が刺激されるかもしれませんが、ダンス作品として面白いし、誰が見ても引き込まれる名作だと思います。
興味の有る方は11月17日、NHKBSのプレミアムシアターを忘れずに〜!
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